巨大少年草紙

<1>

 此処は駒布市のとある古本屋。その取り立てて特徴も無い本屋の奥で難しそうに眉を顰め悩んでいる小柄な少年がいた。年の頃は高校生ぐらいだろうか、市立駒布高校の制服を身にまとい、顔立ちは少々整っているようにも見えるが繊細を通り越して神経質とさえ言えそうな少年である。
  その少年の視線を独り占めするのは一冊の本で、 題名は・・・金箔圧で「究極の力を得る方式」と書かれている ・・・胡散臭さ爆発なその本は鼠色の背表紙に飾り気の無い灰色のハードカバーで少年を引き止めていた。
「う〜ん・・・胡散臭い・・・でも・・・惹かれるのは何でだろう・・・?」
 少年は自分に問い掛ける。その言葉に返答するものは居ないが少年は気にせず先を続ける。
「300円・・・まぁ安いし買っちゃおうかなぁ〜・・・よし!買っちゃおう」
 自分自身を鼓舞するように呟くと少年はキャッシャーで清算を済ませると本をかばんに詰め込み店を後にする。古本屋の主人は少年が店を出てから首を捻りながら不思議そうに一言呟いた。
「・・・あんな本ウチにあったか?」


<2>


 家に帰った少年は早速流し読みをしただけの本を読み返した。それによれば被験者に「***」と「??」と「○○○○」を低温で抽出したものを摂取させ、魔方陣のような複雑な図形を地面に描き、呪文を唱えると、「力」とやらが得られるらしい。幸い「***」と「??」と「○○○○」は兄の研究室にあるし美術部所属のこの少年にとって複雑な図形とは言え書けないとは思えない。早速好奇心旺盛なこの少年は思い立ったら吉日とばかり少年は兄の部屋に向かっていく。兄の部屋についた少年はドアをノックすると、声をかける。
「あにぃ〜?起きてる〜?」
 ちなみに午後5時ぐらいの話である。彼の兄はよほど不規則な生活を送ってるらしい。少年の声に若干1分ほどのタイムラグがあったがドアが開かれ目の下にクマを作った兄(造形は兄弟だけあってよく似ている)が「のそり」・・・と言う感じで出てきた。

「あぁ・・・起きてるが・・・珍しいなぁお前が俺の部屋までくるなんて」
 そういいながら、疲労困憊した様子ではあるが、若干嬉しそうに少年の兄は少年に語りかけた。
「うん。実は、ちょっと研究室を借りて「***」と「??」と「○○○○」を貰いたいんだけど・・・」
 少年の単刀直入な言葉に少し首をかしげながら兄は当然のことを尋ねる。
「そりゃいいが・・・何に使うんだ?「○○○○」なんて・・・俺ですら滅多に使わんぞ?」
 少年は兄の問い掛けに少し顔を赤らめると口篭もりながら答える。
「え〜と・・・ちょっと本に書かれてることを実験したいんだ・・・ダメ?」
 兄はなおも首を傾げつつも、可愛い弟に許可を出した。
「あぁ、勝手に使って良いぞ。ただし、十分に気をつけろよ〜」
  そう言うと、ひらひら手を振り兄は再び寝るためにゆっくり部屋の中に戻っていった。許可を得た少年は寛容な兄にドア越しで感謝の言葉を述べ、実験室へと向かった。実験室に着いた少年は薬棚を確認して目当ての物を取り出すと、机に置き本を開いた。
「えーと、この本によれば・・・「***」を5割、「??」を3割・・・「○○○○」を2割で混ぜ合わせて、同じ量の水と混ぜた後・・・低温で抽出すればいいんだな・・・」本の内容を呟きながら、精密な秤で「***」と「??」と「○○○○」を量り、同じ秤で量った水を混ぜ、低温抽出に使う器材にかけた。
「う〜ん、之で一時間ぐらいかな〜。その間に着替えてご飯食べよ」

  少年は誰にとも無く呟くと実験室を後にした。一時間後。少年は実験室に戻ってくると、抽出が終わったビーカーを覗きこんで黒緑色で青い綺麗な発色の筋が走ってるに水溶液に変貌した100mlほどの液体を見つつ眉を顰める。
「・・・これ・・・飲むの嫌だな・・・」
流石に、好奇心旺盛な少年とは言え毒々しい液体を飲むのは二の足を踏むらしい。その時、少年の携帯が鳴った。
「だれだ・・・こんな時に!」
 少年は二の足を踏んだ事を棚の上に捨て去ると吐き捨てるように呟き、着信の画面を見る。その画面には後輩である「古羽 宗(フルハネ シュウ)」の名前が表示されていた。少年はとりあえず電話を取る。
「はい?」
 少年の素っ気無い出かたに電話の相手は気を悪くした様子も無く元気良く答えた。

『こんばんわ〜打ち上げの件で火貝(ヒガイ)先輩と相談したい事があるんですけど今暇です?』

  火貝と呼ばれた少年は、その後輩の言葉にピンとひらめいた。そうだ・・自分が飲むのが嫌なら他人に飲ませれば良いじゃないか!・・・と。火貝は普通は出さない猫撫で声を出しながらを誘惑する。
「あぁ・・・今、そっちに連絡しようと思ってたんだよ〜。今出てこれる?」
 宗は冷淡な先輩にしては優しい声に訝しく思うことも無く、逆に大喜びで答えた。
「はい!全然平気です!、先輩の家で良いです?」
 疑う事を知らない宗に火貝はほくそえみながら、待ち合わせ場所を告げた。
「いや、じゃあ、30分後に駒布大公園の噴水前で待ち合わせにしよう。来れるね?」
 その少年の言葉に宗は元気良く了承の答えを返したのだった。

<3>


 電話の後、火貝は、出来上がった液体を不透明な試験管に入れなおし、使ったの器材を手早く洗うと、方位磁石と本をバック詰め込み、公園に向かっていった。約束の3〜4分前についたが、忠犬のような後輩は先に待っていたようだ。
  後輩の少年・・・「古羽 宗(フルハネ シュウ)」は初夏もまだ遠いというのに青いぴったりとした胸部のみを覆う短めのタンクトップと同じくぴったりとした黒いスパッツを履いていた。その寒そうなタンクトップから除く肌は公園の外灯の下でも健康的な薄い小麦色をしている事が見て取れ、華奢に見えるがその実、良く見ると筋肉の筋が見えるほど鍛えられている。スパッツから覗く足も同年代に比べかなり毛が薄いようで上半身と同じく華奢ではあるが綺麗に引き締まっている印象である。さらに顔立ちは中性的であるが可愛らしく整っており、年上の女性ならば庇護欲をそそられる事請け合い・・・と言った風情で、今は無邪気な微笑を浮かべていた。

  彼は、火貝の姿を確認するとまさに飼主を見つけた人懐っこい犬のように驚くべき俊足で駆け寄ると、その愛らしい顔一杯に嬉しそうな微笑を浮かべ元気良く挨拶をする。
「こんばんは〜!先輩」
 その様子に先輩の少年は精一杯爽やかな微笑を浮かべると挨拶を返した。
「ああ、こんばんは。相変わらず古羽は元気だなぁ〜」
 敬愛する先輩の言葉に尚一層嬉しそうに笑みを浮かべると言う。
「ええ、元気だけが俺の取り得ですから!・・・ところで先輩が俺を呼び出すなんて珍しいですね〜いつも用があっても電話口で言われるだけだから、めちゃくちゃうれしいです!」
「う〜ん、何、ちょっとした実験に付き合ってもらいたいんだよ〜10分ぐらいで終わるから良いかな?」
 後輩の疑問にあえて答えた火貝は不透明な試験管に入れた液体を差し出すと、宗の顔の前で揺らした。
「良いですけど・・・何の実験なんです?」
 先輩たる火貝を信頼しきったキラキラとした表情で聞くと、火貝は首を傾げながら一応説明する。
「う〜ん・・・科学・・・いや魔術かな?兎に角成功すればすごい事になるらしいんだけど・・・」
 今ひとつ要領を得ない曖昧な火貝の説明を聞き、普通なら尻込みするはずだが宗は首を傾げながらも答えた。
「え・・と、とりあえずソレ飲めばいいんですか?」
 火貝は実験中に逃げられてはアレなので少し詳細にする。
「いや、飲んだ後、地面に書いた図形に載って言葉を発さないといけない」
 そのいかにも怪しげなイニシエーションに恐怖心を抱く事も無く、宗は頷くと火貝に言った。
「判りました〜、じゃあ、図形を書いちゃいましょう〜」
  そう言うと宗は公園の端にある森に近寄ると正体不明の木の枝を折り、火貝に手渡した。枝を渡された火貝は本を見つつ方位磁石方位を確認しながら、直径6mほどの図形を7〜8分ほどで書き上げる。

「さて・・・じゃあ、これを飲んで〜」宗は火貝から渡された不透明な試験管を受け取って蓋を開け、一気に飲み下した。
「で・・・その図形の中央に立って〜」
 言われたとおりに宗は図形を消さないように注意しながら中央の空白部分に立つ。

「暫く動くなよ。え〜と、
イアイアハスター ハスタークフアヤク グルブトムグルトラグルン グルブトム アイアイハスタ!フングルイ ムグルナフ クトゥルフ ルルイエ ウガフナグル フタグン!フングルイ ムグルナフ クトゥグア フォマルハウトンガ グアナフルタグン イア クトゥグア!ヤ ナ カディシュトゥ ニルグウレ ステルフスナ クナァ ニョグダ クヤルナク フレゲントル!ウザ・イェイ ウザ・イェイ イカア ハア ブドウーイイ ラアン=テゴス クトゥルフ フタグン ラアン=テゴス! ラアン=テゴス!! ラアン=テゴス!!!イアイア グブルトム グルトラグルンイア グルブトム ムグルナフ アイ ムグルナフ ウガナグルフタアグン アイアイ ウガナグルフタアグン!!」

  火貝はその一節一節で体勢を変え指を最初は北に次に南へ、次に西、東へと指し、5つ目の節で大地を指し最後に天空を指して之までとは気合の違う言葉を紡ぎだした。黙って、火貝には聞きなれない響きだが、音楽的でリズムとテンポが良く流暢に発声した言葉を聴きながら、宗は素直に感心したらしい表情を浮かべ言った。
「すごいですね、先輩。なんか呪文みたいです」
 呪文以外の何物に聞こえるのか判らないが、宗の感想を聞いて、火貝は事も無げに答える。
「何、本にある通り発声しただけだよ。幸いな事に発音記号もついてたしね」
 そして、火貝は忠実な後輩に尋ねた。
「ところで、身体は何とも無い?」
 火貝の言葉に宗は身体をペタペタと触りながら小首を傾げると先輩に向かって言った。
「えーと、特に何とも無いですね〜どうなる予定だったんですか?」
 普通は最初に聞くであろう問い掛けを発し、中央で回ったりしながら先輩を見るて返事を促す。
「さあ?・・・その辺は確認してないけど・・・何も無いなら失敗かなぁ〜」
 その無責任な「いつも」の言葉を聞いて後輩は苦笑を浮かべると冗談交じりに苦言を呈した。
「せーんぱーいィィィ〜いつも思うんですけど、その辺確認してからやってくださいよぉ〜(笑)」
 まったく効き目の無い言葉を苦笑とともに吐き出した後輩は一歩図形の空白部分から複雑な文様が書かれた部分に足を踏み入れたその時だった。図形に異変が生じる。
「おや・・・」
 複雑な図形は強い光を放ち、砂の上に書かれた物にも関わらず、中央の空白部分を中心として回転し始めたのである。火貝は思わず声をあげ後ずさった。
「おぉぉ!?」
 火貝は10mほど普段の動きからは考えられないほど素早く下がると図形はさらに回転速度を増し直径6mほどのものが12m程に巨大化する。
「お〜、胡散臭い本だったけどほんとにこんな事あるんだなぁ・・・」
 ぎりぎり図形が見えるまで下がると火貝は呟いた。そして、どうしてよいのかわからないと言った風情の宗はきょとんとした表情で回転し巨大化する図形を見ていたが、図形が直径20mほどの大きさになると宗の足首が図形の中央部分に埋没する。
「お・・・や・・・」
 火貝の呟きなど知らぬとばかりに、図形はさらに後輩の華奢な身体を飲み込み、瞬きするうちに完全に後輩の姿は見えなくなった。
「ありゃりゃ・・・平気かなぁ?」
 暢気な火貝はそのまま観察を続ける。その後も図形は巨大化を続け直径30mほどになると、今までとは違う赤い・・・本当に赤とはこういうものだと言う感じの光を放ち始める。その光はあたかも鼓動のような明滅を繰り返しはじめる。
「お〜なんか色変わったなぁ〜どーなってるんだろ」
 火貝は呟きながらもさらに観察を続ける。10分ほどした頃であろうかその図形のからにょきりと巨大な薄い小麦色の何かが出現する。

「あ・・・なんか出てきた・・・」
 その小麦色の何かの太さは大体直径にして2m弱ぐらいだろうか、節くれだちその先端にはしろっぽく硬質な何かがついていた。次第に数を増やし4本まで増えるとその何かは次に現れた厚さ1mほどで、9mほどの幅がある物に付いていた。さらに少し離れたところにもう一本、他の何かよりも太い物が生えてくる。
「・・・ひょっとして・・・手・・・?」
 火貝はその様子に絶句しながらも好奇心が抑えられずその場を動けずに居た。そんな事はお構いなしにはっきりと判る巨大な手・・・続いて巨大な腕が出現し、差し渡し15m以上になりそうな手のひらが公園の森を叩き潰す。
  そこを手掛かりにしてさらに同じサイズの手・・・腕がもう一本生える。後から出た腕が反対側の森林を叩き潰し、そして徐々に腕と腕の間に直径12mほどの黒い森林のような小山が現れ、ゆっくり小さいサイズならば見慣れてる後輩の可愛らしく整った顔が現れ、タンクトップを着た肩が出てくる。そして、両手に力が込められると逆立ちの要領で一気に残りの上半身、下半身が大地より解き放たれ、その巨大さからは想像も出来ない俊敏さで逆立ちの状態から腕の力のみで跳躍し、空中で回転して上下を元に戻し、しゃがむ姿勢で着地する。

『ズシーン・・・!!』


 巨大化した後輩のスパイクがかなりの加速度とともに公園の広い部分に直撃する。火貝はその振動に耐え切れず地面に叩きつけられた。
「あれ・・・?せんぱーい!どこにいるんですかー?」
  宗はきょろきょろと辺りを見渡し、そこで初めて自分の視点がいつもより遙に高いことに気がつき、地上をに目を凝らし始める。普通ならパニックになりそうなものだが、此処は天下の駒布市・・・この程度の変異には慣れてるらしい。巨大化に伴って視力も上がってるのか、程なくしてしりもちをついている火貝を見つけると、両手をそっと火貝の近く(とはいっても20mは離れている)におき、トライアスロン用のTバックで覆われた股間を火貝の正面に置き、長い足を開脚の要領で開いて火貝へと顔を近づける。
「あ、先輩〜。これって成功なんですかね?」
 間の抜けた後輩の言葉に少し我に返った火貝は、巨大な後輩の顔を見つつ、呟く。
「・・・せ・・・成功かなぁ・・・確かに「力」だけど・・・こういうものが与える力って大抵超能力とか・・・魔法とか・・・そんなのじゃないかなぁ・・・?」
  その囁きのような独り言が後輩の耳には届いたのか、後輩はしかられた犬のようにうなだれ、情けない声をだす。
「せんぱぁ〜いぃ(泣)」
 巨大化してもまったくかわらない行動パターンの後輩に火貝は苦笑し首を振ると、自分自身もあぐらをかいて座り献身的な後輩を労ってやる。
「いや、成功だ。良くやったよ宗〜♪」
 この先輩は機嫌がよいと苗字ではなく名前で呼ぶのだ。その機嫌のよさを敏感に感じ取った後輩は彼から見て1.5cmほどの大きさの先輩ににっこり微笑みかける。

「先輩!折角だからどのぐらいすごい力なのか試してみません?」
 後輩の提案に首をかしげると言った。
「うん?確かめるのはいいけど、どうやるつもり??」
「丁度いいのがあるじゃないですか(笑)」
 先輩のまっとうな意見に後輩は後方のビル街を巨大な親指で指すと、人の悪い笑みを浮かべる。
「・・・人ってのは・・・大きすぎる力を得たらろくでもないもんだなぁ・・・」
 火貝はゆっくりと達観した表情で呟くと、後輩の意地悪そうな笑みを浮かべた、子悪魔と言う感じの顔を見上げる。その呟きが当然聞こえてるらしい宗は少し困ったような表情を浮かべながらも誘う。
「せーんぱーいぃ。なんか、大きくなった途端暴れたくてしかたがないんですよぅ〜、ビル街なら多分そんなに人は死なないと思いますし、それともそこで見てます?」
  どうやら、説得は無理らしいと悟った火貝は、こうなれば乗りかかった船だとばかりに首を振ると渋々了承する。
「あぁ・・・まぁこうなったのも僕のせいだしね。付き合うよ・・・っと、どうやって付き合うんだよ?」
 好きな先輩から暴れてもいいと言うお墨付きを貰った後輩は自分の手をゆっくり潰さないように先輩の前に差し出す。
「え〜と、肩に乗ってタンクトップの紐とか掴んでてくれれば落とさないと思います〜」
 その言葉に火貝は眩暈を起しながらも立ち上がり砂を落とすとゆっくり手に近寄ると恐る恐る手の平の上に乗る。巨大な手の平は温かく、上質のウォーターベッドのように軟らかく火貝を包んでいるが、一度力が篭れば、小さな人の身体など一たまりも無いだろう・・・その事実をあらためて認識し少し震えている火貝へ、宗は太陽のように晴れやかな笑顔を浮かべるとちゃんと中央付近に先輩の身体がきている事を確認して火貝に言った。

「上げますよ〜、しっかり捕まりました?」
「う・・・捕まるところが無いからしゃがんでみる・・・」
 宗は火貝が安定した体勢になるのをゆっくりと待ち、軟らかく手をお椀型にして自分の肩の付近まで持ってくる。そして、肩のくぼんだ部分に手を当てると火貝に問い掛ける。
「先輩。乗り移れます?」
 降り立った肩のくぼみは、手の平に比べると歩きやすい。直ぐ横の太い静脈が絡みついた、巨木のような首筋に向かって言う。
「あぁ、で・・・タンクトップの紐を掴めば良いんだね?」
 宗はちょっと考える仕草をすると返答する。
「掴むより、俺の身体と紐の間に先輩の身体挟んでくださいよ。そうすれば思い切り暴れられますし(笑)」
 火貝は凄まじい張力の紐に触りながら無茶しそうな後輩に釘をさした。
「どーでもいいが、やりすぎないでくれよ」
「大丈夫ですよ〜先輩の安全だけは絶対保障しますって(ニヤリ)」

  どうにも不安な後輩の言葉に再び眩暈に襲われながら、火貝は自分の身体の半分を縦に紐と肩のくぼみの間に潜り込ませると、片手と片足を紐に挟むように抱き込み、緩やかな肩のくぼみ部分の傾斜に身を任せた。手の平より硬質な肩のくぼみは、より心臓に近いためか暖かく鼓動もより近く感じその緩やかな振動にマッサージされているような感触で、火貝は心地よさに目を閉じてしまったが、ふと思い出して後輩へと指示を送る。
「準備OK〜、立ち上がっても平気だぞ〜」
「はい、じゃあ最初はゆっくり立ち上がりますね」
 宗はその言葉どおりゆっくりと立ち上がった。
「お〜・・・ラン○マーク○ワーより高い・・・」
 感動ぎみな先輩の言葉に、後輩は嬉しそうな微笑を浮かべると眼下に広がる明るいビル街を見据える。
「じゃ・・・ちょっと暴れますね。ゆっくり特等席で見ててくださいよ(笑)」
 そう言って、火貝の様子に気を使いながらもビル街に向けて50歩ほど歩くと、ビル街にとっての破壊神はゆっくり自らの遊技場へ足を踏み入れた・・・。

<4>


「一番低いのから行ったほうが良いかな?」
 言うが早いか、超巨大なスパイクで武装した足が、宗のくるぶし程度の高さのビルを襲う。

『バキャ!!!』

 十分に勢いのついた彼の足の甲が、鉄筋コンクリートで作られたビルを粉々にし、さらに振りぬく勢いで逆袈裟気味にその奥にある背の高いビル達を粉砕する。
「うはぁ・・・すごい・・・」
 火貝は思わず呟くと宗は微笑みながら先輩に感想を述べる。
「あぁ〜凄く脆いみたいですね〜」
 そう言いながらも、振りぬいた足を下ろさず、軸足で身体を回転させ、体勢を変えて、そのまま逆方向にある40〜50mのビルを袈裟切りの要領で強力な足(脛+足の甲)を叩きつけた。

『バキ!バキン!!バキャ!!ズゥーーン・・・』


 破砕する音と重い音がほぼ同時に響くと、宗は明らかに喜色に満ちた顔で声に出して笑う。
「あはははは、ウェハースで出来た模型みたいだ(笑)」
 その言葉を吐きながら彼は一度足を下ろすと、30mほどのビルを目に留め、火貝に次の行動を宣言する。
「今度は踏み潰してみますね♪」
 よほど上手い蹴り方なのか、それとも巨大化した宗にとって軟すぎるのか、衝撃は思ったほどではないが、目の前で行われる凄まじい光景に言葉を失っている火貝に楽しそうに言うと、火貝に見えるように上体を傾け、ゆっくり足をビルの屋上にかける。20m×10m以上ある宗の足の裏はどちらかと言うと屋上が大きいつくりになっているビルの殆どを覆い尽くす。
「じゃ・・・体重かけますね〜捕まっててくださいよ」
 宣言と同時にゆっくりと宗は体重をかけていく。最初こそビルは想定されない重圧に耐えていたが、足の先の体重がかかった段階で軋み始めた。

『ギ・・・シ・・・ミ・・・シ』

その様子を見ながら宗はさらに体重をかける。

『ギシ・・・ミシ・・・ミシミシ・・・』

 体重が加わって行くと、周囲にコンクリート片を撒きながらビルは断末魔の悲鳴を上げる。その様子を食い入るように見つめている火貝の様子に喜びながらも宗は一気に体重をかけた。

『ミシ・・・バキ・・・ミシミシ・・・バキバキバキ・・・ズドーーン!!!』


 その破壊音とともに膨大な砂煙が立ち、ビルの痕跡はガレキのみとなる。
「ハッハハハハハ、体重の5分の1もかけてないのに弱いなぁ・・・ちょっと興奮してきちゃいましたよ♪」
  見ると、中性的な宗の容貌に釣り合わない男性部分は必要最低限の布で覆われた場所を突き破りそうなぐらいの勢いでそそり立っている。
「アハハ、我慢できないんで始末しちゃいますね♪」
  明るく宣言すると、赤黒く超がつくほど巨大で強靭そうな砲身を取り出し、200mぐらいの大きさのビルに狙いを定めて巨大な両手で巨砲を握りこみ筒を作り、腰を前後に激しく動かし始める。

『シャシュシュシュシュシュシュシュシュシュシュ・・・・』

  徐々に荒くなっていく吐息と快楽に歪む可愛らしい顔が不釣合いなようなある意味似合っているような・・・そんな倒錯を呼び起こす仕草と表情を、ほかでもない火貝へと見せつけながら最初からハイペースだった腰の動きをさらに激しくする。5〜6分ほど激しい動きで巨大な兵器を慰めていた両手に血管が浮くほど力を入れると握り締めると大声で宣言する。

「あ・・・もう・・・イッちゃいます!見ててくださいね!!・・・ハァッ!!!」

  声と同時に、ビルに狙いを定めた小さなビル程度ならそれだけで横幅も高さも優ってしまうそうな勃起が、その巨体に見合う・・・と言うかそれ以上の量の、粘り気の強い白濁を発射した。

『ブシャ!ブシャ!ビシュ!ブシャ!ビシュ!ブシャ!ブシャシュシュシュビシュシューーーー!!!』


  あまりの勢いに、その白い粘液は半ばシャワーのようになりながら無抵抗なビルへ襲い掛かる。

『バシャ!ベシュ!ビジ!ビシュ!バ!ドジャジャジャーー!!!、ブバジャジャビジャーーー!!!』

 彼にとってはシャワーでも、音速を超える速度と、一つの塊が軽自動車1台分はゆうにありそうな質量は、ビルを破壊し貫通するには十分であるようだ。恐ろしい勢いで、断続的に叩き付ける暴力的な質量に為す術なく人類の生み出した文明の証は穴だらけになり、恐ろしく濃厚な白濁でねっとりと覆われてしまう。
「ふぅぅぅぅ・・・・」
 宗がゆっくり止めていた息を吐いたときには、そこにあるのは200mの高層ビルでは無く、15歳の少年の自慰行為によって理不尽な破壊を受け、無残に屍を晒すただのコンクリート塊であった。アレだけ大量に発射したというのに宗のソレは発射前と変わらないどころかより勢いを増していた。さらに片手でまだまだ元気なシンボルを抑え、片手を倒壊寸前のビルにかけ、太股で挟むと一気に猛り狂う凶悪な獣を押し込む。

『バキバキバキィ!・・・バギャ!!』


  力加減を誤ったのか巨大な太股に挟まれたビルは破壊音とともに上下泣き別れになってしまう。
「あ・・・ちょっと失敗。」
 宗はその失敗?にもめげず、泣き別れにしたビルの上部をその辺にほうり捨てた。

『ドカーン!』


  そのビルが立てる落下音を無視して別の無傷のビルへ足を進め同じぐらいの高さのビルに両手をかける。そして、おもむろに力を込めると、ビルは盛大な軋む音とともに10mほどの根っこを無残に晒し引っこ抜かれた。
「クス・・・これ、どうすると思います?」
 不気味に含み笑いをした宗は先輩に語りかける。
「さ・・・さあ?」
 驚きで発想力が鈍っている火貝は、そう答えるのがやっとであった。その様子に笑みを深くしながらも宗は何も言わずにビルを抱え直し、先ほどのビルへ長刀を使うように縦に叩きつけた。

『ズドコーン!!!』


  冗談のような勢いで叩きつけられたビルは、周囲に多大な被害をもたらしながら崩壊し半分だけ残っていたビルも殆どつぶれてしまう。それだけでは飽き足らないのか、宗は素早くしゃがみこみ、音を立てて、跳躍すると、ビルのあった付近に着地する。

『バン!・・・ドッカーン!・・・ズゥゥゥゥン・・・』

  余韻を残した破壊音と膨大な粘塊が舞うが、湿り気が多いためか直ぐに収まると、地上の様子が見えてくる。まるで、砂場で作った砂の城が潰されるように・・・宗の凶悪なスパイクはくるぶしの上まで地面にめり込んでいた。その後軽く跳躍して足をビル後から抜き、元気すぎる分身に軽く刺激を与え衰えないどころか益々凄まじい量と速度になった白いゲル状の物体を思う存分、溢れて周囲を侵食するほど大量に発射したのだった・・・。
「ハァ・・・気持ちよかったぁ」
  そう言うと、まだ臨戦状態のソレを激しく上下に振るい残滓を始末してより激しく興奮したソレをTバックの小さな布切れに無理やり押し込み、肩に居る火貝に話し掛けた。
「エヘヘ。驚かせてすいません。でもこんなんじゃ俺の強さわかりませんよね?(笑)」
 着地の衝撃で、紐にしがみつくのが精一杯の火貝は宗の言葉に呆然と返事を返す。
「あ・・・あぁ・・・」
「う〜ん・・・俺の強さがわかりそうなの・・・あんまり無いなぁ・・・とりあえず目に付くビル全部壊したら認めてくれます?」
 その殊勝な言葉に火貝は頷いてしまう。
「判りました♪全部壊しちゃいますね(微笑)」
 物騒ではた迷惑な言葉を吐くと、宗は言葉を実行し始める。
 それから始まったのは圧倒的な破壊であった・・・。

 あるビルは、巨大な手のひらで打ち潰されぺしゃんこになり。
 あるビルは、足から繰り出される強烈な前蹴りで纏めて倒壊し。
 あるビルを、巨大な腕でなぎ倒し。
 あるビルは、恐ろしい重量を持つ足のかかと落としを受け真っ二つになり。
 あるビルは、巨大な両手で握り潰され。
 あるビルは、宗が思い切り息を吹き込んだだけで内圧に耐え切れず自壊し。
 あるビルを、巨大なTバックのプラスチックのような材質の部分で擂り潰し。
 あるビルは、大きく膨らんだTバックの前面と強靭な太股で10分の1以下に圧縮され。さらに高々と跳躍し、尻の部分から着地し、衝撃によって周囲は耐え切れず根こそぎ倒れ、着地地点の中心の部分は小規模なクレーターと化す。
 ・・・一番の巨体を誇るビルは、腰の前後運動で穴をあけられ、大量の白濁の水圧で爆発するように四散した挙句、冗談のようなインパクトのある頭突きで周りのビルを巻き込んで倒れる・・・と言う屈辱的な最期を遂げた。
 ・・・兎に角、ビルの分だけ破壊のパターンを開発しなければ気がすまないのだろうか、その巨体と力を存分に生かし、叩き、蹴り、潰し、壊す。そんな地獄のような光景が30分ほど続いただろうか・・・。
  ビルは殆ど残っていない状態になってしまったと宗は呟く。

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「あ〜、もう殆ど残ってないや・・・」
 お気に入りの壊れやすい玩具を壊してしまった幼子のような言葉を吐きつつ辺りを見渡した宗はふと異変に気が付いた。
「あ!、先輩!アレなんでしょう?」
 巨大な指先が指し示す先には、倒壊したビル街があったが、そのガレキから様々な大きさを持った白、青、赤などに明滅を繰り返す光点が宗の方に近寄ってきているのが見える。火貝はそれを見ると、首を傾げながら推測した。
「さあ?・・・まぁゆっくりだしガレキから出てるみたいだからガスとかかな?」
「う〜・・・でも、俺に向かってくるみたいですけど・・・」
 そうこう言ってる間に、不思議な光球は宗の身体に触れる。
「うぁ・・・っ!?」
 宗は初めて驚きらしい声を上げる。
「お?どうしたの!?」
 少しばかり心配になった火貝は宗に声をかけるが、その声すら聴いていないのか聞こえないのかさらにうめきらしき声を上げる。
「くぅぅぅ・・・はぁぁぁ・・・あぁ・・・うぅん・・・ふぅはぁぁぁ」
 その声に確かな官能の色が見え、火貝は少し顔を引き攣らせながら再び問い掛けた。
「お〜い?大丈夫〜?」
 火貝の声に宗は紅潮した顔を向けると言う。
「すっごく・・・すっごく気持ちいいですぅ・・・」
 感慨のこもった声に、火貝は声をかけた自分の愚かさを呪った。10分ほどして粗方光球を体内に吸収し終えた宗は、まだ紅潮の残る顔で素晴らしい力を与えてくれた先輩に囁いた。
「なんか・・・凄い事ができちゃいそうです・・・」
 宗の曖昧な言葉を受け、火貝は聴き返した。
「・・・凄い事?」
「見たほうが早いですよ♪」

  火貝の聞き返した言葉に返答すると、宗はゆっくり、ビル街・・・この様子では元ビル街だろうが・・・から公園の方へ戻ると、元ビル街が一望できる場所に陣取り、火貝の居ない肩の片腕を持ち上げると手の平を元ビル街に向ける。
「お〜い、何をする気?」
 火貝の言葉ににっこり微笑むと、宗は囁いた。
「少しだけ・・・しっかり捕まっててくださいね・・・」
 謎の言葉を残し、宗は目を瞑る。2秒だろうか、3秒だろうか、兎に角、火貝が文句を思いつく前に、ビル街へ向けた手のひらへ光が集まり始める。
「お・・・お?」
 釘付けになった火貝に構うことなくその光は禍々しく炎のように揺らめきながら徐々に光量を上げていく・・・数秒後、宗がゆっくり目を開くと赤い光が爆発的に膨張する。
「このぐらいかな・・・っと・・・いっけぇぇぇぇ!!」
 宗が叫ぶと、赤い光は光の球となり、着弾と同時に、爆発的に面積を増し殆ど廃墟と化したビル街を飲みこんだ。

『ボシュ・・・ボシュ・・・ボシュ』


  そんな、気の抜けるような音発し、光は収束したがその効果は恐るべきものであった。先ほどまで辛うじて大災害の後・・・程度に原型を留めていた元ビル街はさらに徹底的に破壊される。直撃したビルは赤い光の中、不細工な飴細工のように捻じ曲がり蒸発し、直撃を免れたビルも一瞬にして炎上し、苦痛に身をよじるようなその姿を夜闇に浮かび上がらせていた・・・。宗の大破壊を真近で見てある程度免疫のついた火貝も思わず空いた口がふさがらない。
「どうです、先輩ぃ〜。これなら地下に逃げたのも蒸発しますよ(笑)」
 考えようによっては恐ろしい・・・と言うか下手に考えなくても恐ろしい発言をしつつ、先輩へと顔を向けると曇り一点も無い爽やかな良い笑顔を浮かべさらに言う。
「でも、手加減しすぎたかなぁ?少し焼け残りがあるみたいですね。もう二〜三発打ち込んでおきます♪」
 その言葉とは裏腹に、二三十発打ち込むと、ようやく満足したのか宗は腕を下す。いまだ燃え、断末魔の舞踏を続けるビルが松明の役割を果たし、月明かりもあるので元ビル街は鮮明な・・・それ故に痛々しい姿を晒していた。
  しかし、光球を打ち込んでまた興奮したのか、宗の少年の証はさらに猛々しくなり、最早中央の布切れはその部分を隠す役に立たないぐらいにいきり立っていた。その窮屈な布から宗自身を開放し、凄まじい勢いで立ち上がるソレの先端を両手で元ビル街へと向け、全身を緊張させる。全身に力を入れるたびに血管が浮き上がり脈動する。その効果は劇的で・・・急速に、ただでさえ巨大な身体がさらに巨大化していった・・・。
  その成長?にあわせてタンクトップやTバックも巨大化するから謎である。
「おっ?おぉぅ!?」
 火貝の叫びを無視し、巨体からさらに10倍ほど超巨大化させると大地を揺るがす大音声で宣言した。
「・・・これで・・・止めだぁ!!!」
 叫びと同時に、ダムが決壊した時の音よりも大きい鉄砲水のような轟音とともに、一塊で小さなビルほどの体積をもった粘液の弾丸が元ビル街全土に降り注ぎ・・・それでも足りないとばかりに粘液を発射する合間を縫って宗自身から、先ほどとは比べ物にならないぐらい巨大な光球が出現射出され、ビルを叩き潰した粘塊を沸騰させ、ビルを燃え上がらせ、蒸発させる。

・・・ほどなくして・・・

元ビル街はグツグツと煮える巨大な粘塊と無数の光球、さらに副産物の火炎で舐め尽くされたのだった・・・。

<5>


「あ・・・そういえばどうやって戻るんです?」
 ビル街壊滅から10分ほど・・・余韻も薄れ股間の暴れん棒も小さな布切れに収まるぐらいに落ち着いた後の宗が今更な疑問を、火貝に投げかける。火貝は我に返り、返答した。
「あぁ・・・今調べる・・・」
 そう言うと、持ってきた本を開いた。目次を見て1分ほどで目的のページを見つけるとそのページ開く。そのページにはこう記されていた。
「〜〜かように様々な恐ろしい効果を持つ方式であるが、もしも巨大になってしまったらその時は・・・」
 音読しながら次のページを捲った火貝の目に飛び込んできたのは3文字だった。
「ね・ん・じ・ろ!!!」
 その文字を思わず区切りながら読んでしまった火貝は叫んだ。
「この本の作者・・・途中で・・・あ・き・た・の・か!!?」
 火貝の絶叫に、宗は小首をかしげながら言う。

「とりあえず、念じてみますね?」
 純心と言うか素直と言うか能天気と言うか・・・ともあれ火貝は叫びで体力を使い果たしたのか、肩のくぼみに身をゆだねると、手のひらをひらひらと振り、好きにしろと言うジェスチャーをする。そのジェスチャーを受けた宗は再び目を瞑ると唸り始めた。
「う”ぅぅ〜〜〜ぅぅん・・・」
 期待なんぞ端からしていなかった火貝ではあったが、宗が念じ始めると異変を感じ始める。徐々に視界が下がりつつ、肩のくぼみ、タンクトップの紐が徐々に縮みはじめたのである。火貝は驚きながらも紐から抜け出すと、目を閉じ、疲れたように呟く。
「あ・・・安直だ・・・」
 火貝が呟く間にも、宗は元の大きさに近づき、10分程度かかった巨大化とは違い、超巨大化から元の身長まで5分程で戻る。
「あ、戻りましたね。」
 宗は能天気な発言をしながら、やけに軽く感じる火貝を肩から下ろし、先輩に尋ねた。
「う・・・そういえば、体重・・・軽くなりましたか?」
 宗は首を傾げ、手や御尻を叩き埃を落としながら質問するが火貝は首を振るとそれを否定する。
「いや、減ってないはずだが・・・ひょっとして!?」
 火貝は嫌な予感に駆られつつも、肩から降り宗に言った。
「宗・・・ちょっと、そこら辺の木殴ってみてくれる?」
「え?・・・はい!」
 奇妙な火貝の言葉に首を傾げながらも、宗は素早く木に近寄ると軽く拳を打ち付けてみる。

『バキョ!』

細めの木は宗の拳を受け、真っ二つである。その様子を片方はかすかな驚きとともに、片方は深い絶望とともに受け入れた。しばしの沈黙の後、火貝が最初に口を開く。
「あ・・・やっぱり。・・・宗。お前、全体的な力が上がってるみたいだね、それも半端じゃなく・・・」
 火貝のゆっくりとした口調の言葉を聞き、宗はゆっくり頷くと首をかしげた。
「みたいですね〜・・・でも、巨大化終わったみたいなのに何ででしょう?」
 宗の言葉に火貝は投げやりに言う。
「さあ?・・・案外、念じてみたらまた巨大化するんじゃないの?」
「あぁ〜そうかもしれませんね・・・ちょっとやってみますね」
 火貝は最後の言葉を聞きとめ、制止しようとするが一瞬遅く、宗は目を閉じて短く息を吐いた。
「ふっ!」
 その吐息とともに、宗の身体は数秒でビル街で大暴れしていた程度の巨体へと変貌を遂げた。宗は目を開くと辺りを見渡し例によって火貝の両脇に手の平をつき、その周りを長い足で囲むスタイルで座り込むと、火貝へと顔を近づけて言う。
「先輩〜大きくなったり戻ったり出来るみたいですねぇ」
 判りきった報告に、疲れたように頷いた火貝は普段の後輩への態度と変わらぬ態度で言った。
「あぁ〜、判ったから・・・とっとと戻れ。人が来るよ」
 その言葉に頷くと、目を閉じる。今度は10秒ほどで元に戻ると、火貝へと楽しそうに報告する。
「なんか、身体が慣れてきたのか凄い速さで調節できるようになってきました♪」
 宗の言葉に軽い眩暈を覚えつつも、近寄り頭を撫でて労を労ってやる。大好きな先輩の嬉しい接触に、宗はゴロゴロ喉を鳴らさんばかりに目を細め、口元を緩めて、頭を動かし火貝の手を頭全体で味わうように、至福を表現しながら何時までも・・・何時までも甘えているのだった・・・。

・・・

  その日の駒布ニュースの朝刊にこんな文字が躍っていたのは言うまでも無い。
「駒布市粉采町『またも』謎の壊滅!夜のビル街に移る巨大な人影とは!?」

・・・お後が宜しいようで・・・。

・・・

End?